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2009/7/22 感想を書きました。


「スラム化する日本経済」浜矩子 講談社 講談社α新書 2009年 3月20日発行

昨年後半から顕在化した世界的な経済危機、身近に感じる問題としては昨年暮れの雇用を中止されて行き場のなくなった工場労働者たちのニュースに、一体どうなるのだろうという気持ちから手に取った。大学では一応社会科学系を専攻したけど、経済関係には私はとても疎い。でもこの本は講談社新書より、まだ親しみやすい講談社α新書から出ているだけあって、非常に優しく書かれている。なにしろインフレにはデマンド・プル型があって、コスト・プッシュ型があって……というところから説明してある。

1970年代の不況なのに物価も賃金も上がるというスタグフレーションに対し、グローバル化した現在は賃金はさがり続ける。そして p.61「日本のデフレによる金余りと低金利が過剰流動性の輸出という形で世界にインフレ要因を拡散させた。」インフレとデフレが共存する奇妙な状況。先進国では「豊かさのなかの貧困」があり、資源供給を果たす位置にある国々には「貧困のなかの貧困」がある。世界的な競争の中で労働者や資源供給国が安く買い叩かれるのだ。公共サービスの民間委託も効率を求めるあまり、労働者にコストを強いる。投資ファンドという本来の資本家に雇われた疑似資本家が求める利益が労働者の労働条件を苛酷にし、経済を不安定なものにしている。投資ファンドにならったアグレッシブな国家的な投資も行われるようになった。こうした状況の中で、この本の副題に「4分極化する労働者たち」とあるような労働者たちの状況が生まれている。それは正規労働者と非正規労働者( 2008年10月から 2009年 3月で約 8万 5千人が雇い止めの見込み)、そして外国人労働者( 2006年で日本における合法的就労者が約75万人)、さらに労働難民が存在するという構図だ。

この優しく書かれた本を読むと、世界的な危機であるが、その構図はシンプルであるように感じる。ところが、それが容易に解決出来ないというのは、また見解を異にする論者もいるのかも知れないし、この本に言う「自分さえ良ければ病」の存在だろう。そんなものは太古からあっただろうけど、それが世界に蔓延して歯止めが効かなくなっている。それに歯止めをかけるのは、単なる経済政策でなく、国家、企業、個人、各々の立場での倫理が要求されるところが難しいのだろう。終章でオバマ大統領の就任演説が紹介されている。「今や、富が一握りの人々に集中する時代は終わった。豊かさはより多くの人たちによって共有されなければならない」と言ったそうだが、そうしたことを是とする大きな流れが起こっていかなくてはならない。また、そうした立場に立ちながら、実際的な局面で、著者の言う「番頭」的な、各々の利害を調整して行く存在も必要なのだろう。

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