2008/7/18 感想を書きました。
最初に私の立場を言うなら、今から 30年近く前に一応大学で社会学を専攻していた。だが、ウェーバーやパーソンズの本を断片的に読まされた程度で、とうてい熱心に勉強して、社会学への理解を深くして卒業したとは言えない状況だった(私自身は対人恐怖症的な状態で、ゼミなど出席するのがやっとだった。大学は地味だが、名前を言うと、その地元では感心されるような大学だったが、そんな大学でもウェーバーの「社会学の根本概念」の一部などをゼミのテキストとして読まされると、なかなかちゃんと読めてないのだった。あるいはデュルケムの岩波文庫から上下二冊で出ていた「宗教生活の原初形態」を入門ゼミで冬休みに読むのが課題とされると音を上げるような学生もいた。教授は学生運動の時代に較べて大人しくなったのはいいが、覇気がなく、不勉強な学生たちに大いに不満な様子だった)。当時、良い社会学の入門書のようなものも見当たらなかった。教養課程で社会学概論というのがあって、講義にまともに出ずに夏休みにそのテキストとして買わされた本を読んだら、もう、それが「行為」とは、「社会行為」とは、というようなことが順に説明されてあって、面白くないったらなかった。ウェーバーの「社会学の根本概念」も似たようなものと言えば言えるが、こちらはさすが古典だけあって、読むに値する。何か面白く読める本はと、探したが、新書の類は加藤秀俊あたりが書いたエッセーのような本しかない。NHKブックスから出ていた山岸健「日常生活の社会学」という本を読んで、現象学的社会学という方法があるのを知ったが、本自体は何を書いていたのか記憶にない。卒業前に読んだ講談社新書の神島二郎の講談社新書「日本人の発想」は唯一、面白いと思った本だった。
そういうわけで、大学で社会学を学んだと言っても、とうてい何を学んだと言えるようなことがない(一応卒業後でもウェーバーの岩波文庫「社会学の根本概念」「職業としての学問」「職業としての政治」という薄い本は読了した)。社会学って何をやるのと言われると困ってしまう(実際、アルバイト先の店屋の倉庫で作業しているとき、店のオヤジさんにそう聞かれたことがあって、人と人の行為の関係が云々と答えたが、とうてい他人を納得させる返事は出来なかった)。
そんな社会学に対する不完全燃焼のような思いがあるので、この入門書を読んでみる期になった。実用書の出版社からこのような基礎学問についての入門書が出ているなんて、私の学生時代にはあまり考えられなかったし、あったとしても、面白くない、役に立ちそうもないように見えるものだったろう。ところが、たまたま書店で手に取ってみると、これはちゃんとしてそうだ。他にも倫理学の本などを見たが、最近は実用書の出版社からも、なかなか良さそうな入門書が出ているらしい。
東京学芸大の浅野智彦は編と一部の著者で、他 4名の先生が分担して執筆している。上に書いたように私の大学時代はパーソンズ止まりだったのだが、この本ではエピローグとして、それ以降の流れが書かれている。それだけでも参考になる。一番肝心の問題で、一番答えにくいとも思える「社会学とは何か、何をするのか、何の役に立つのか」について、答えているプロローグが一番、私は参考になったと思う。各章は「私」という個人的な存在から「国家」「世界」に至るまでの社会集団を順に取り上げている。各論として、現在のトピックを上手く取り上げている部分、読者に新たな発見を与えると思える部分もあれば、適当に話題を取り上げて、無難に解説風なことを書いて終りという部分もある。全体的に NHKのアナウンサーが真面目に解説している風、または教育テレビに出てくる真面目な先生風で、無難でちょっとだけ進歩的なポーズ、が物足りないとも言えるが、実用的入門書としては十分だろう。