wattsのノート−いろいろな本のノート

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2007/3/14 感想を書きました。


「オープンソースがなぜビジネスになるのか」 井田昌之・進藤美希 毎日コミュニケーションズ MYCOM新書 2006年 7月 7日発行

2人の著者が 4つの章を分担して執筆している。そのうちの一人、井田昌之はオープンソースにつながる GNUフリーソフトウェアの中心人物、リチャード・ストールマンと親しい人だった。いろいろなエピソードが書かれている。リチャード・ストールマンが自分の使うコンピューターにパスワードを設定せず、誰でも使えるようにしているというエピソードは、いろんな機会に耳にする、いや、目にしてきたが、1992年には、彼もパスワードを設定するようになったということは、この本で、初めて知った。(p.30) 状況は変わっていたのだ。

これから Linuxや OpenOffice.org、GIMPといったオープンソースのソフトウェアを使う人にとって、自分が使っているオープンソースのソフトウェアとか、フリーソフトウェアって、どういうものなのか、GNUって何なのか、知るためには、よくまとまった内容の本だと思う。そもそもの 「GNU」の読み方も、プロローグで書かれている。もちろん、こういうことは知らなくても、日常それらのソフトを使うのに支障はない。

私が、1990年中頃にパソコンを買って、パソコン通信を始めると、いろんなフリーソフトをダウンロードして、また雑誌の付録のフロッピーディスクや CD-ROMから入手して使うようになった。当初は、単に漠然とフリーソフトやシェアウェアというものがあるということを知っているだけだった。パソコン通信でソフトをダウンロードするのに必須の LHAを手始めに、様々の素晴しいソフト、楽しいソフト、ユニークなソフトを体験した。新しい、画期的な体験だった。そのうち Linuxを使うようになった頃から、GNUという語を、目にするようになった。読み方からして分からない、この語、フリーソフトウェアやリチャード・ストールマンという人名も、一人で Linuxを使っていって、分からないことを、いろいろ調べているうちに、だんだんと馴染んできた。どういうものか、分かってきた。だから、私にとっては、今になって無理に読まなくてもいいような内容の本だった。ではなぜ読んだのかというと、題名の「オープンソースがなぜビジネスになるのか」から、オープンソースが、現在どういう風にビジネスになってるのだろうか、これからどうなるのか知りたかったからだ。

今でも、Linuxをはじめとする、オープンソース・ソフトのおかげで、便利なパソコン生活を送っているのだが、家庭で一人で使うためには、いろいろな本を読んだり、ネットで調べたりして、それなりの労力を払った。その見返りが、古いパソコンでも、ずっと使えている、高いソフトを買ったり、バージョンアップのために企業にお金を払わなくていい、という程度では、ちょっとさびしい。もう少し、オープンソフトを使っている、使ってきたことの利点はないものだろうかと思ったのだ。もっと正直に言うと、オープンソフトがビジネスになるなら、ふだん、それを愛用している私も、ビジネスとまではいかないでも、お小遣い稼ぎくらいは出来ないものか。それに関しては、あまり、新しいことは書いてなかった。ネットや雑誌や、日々、いろんなところから断片的に入ってきているニュースですでに知っていることがほとんどだった。逆に、なんだか、初心者向けに、企業の宣伝マンならぬオープンソフトの広報担当者みたいな人が、いいことばっかり書いているような気がした。こんな団体、グループがありますよ、こんな試みが行われてますよというような、表面的なことだけ書かれても、その実体はどうなのか。そこらへんまで、ちゃんと書いてほしい。表面的なことなら、今ではネットで、すぐ調べられるのだ。

例えば、草の根コミュニティとして、日本各地に LUG (Linux Users Group)があると書いてある。私も、Linuxを使い始めたとき、興味を持って、「日本のLinux情報」の LUGのリンクをたどってみたけれども、参加したい、参加できそうなところはなかった。あまり活発に活動が行われているようでもなかった。この本を読んで、あらためて、同リンク集を見てみたけど、40くらいの国内グループで、大半は、活動が、ずっと前から滞ってたり、中には、なくなっているところもあった(2007年になっての活動が確認されたのは、関西の LILO、東京の TLUG 、横浜の YLUG くらいだった)。これは極端な部分だろうけど、こういうこともあるのだ。産業界が設立した団体、その一つ、OSDLは、企業に Linuxを推進するのが目的で、IBMや HP、インテル、NECなどによって 2000年12月に設立されたとある。Linux開発の中心人物、リーナス・トーバルズも所属しているというが、今現在、企業に、どの程度 Linuxが使われているのか。少なくとも、企業でない一個人の私が、プリンターやスキャナーを買い替えようと思っても、メーカーが Linuxに公式に対応しているというものは見当たらない。うまく使えるのか不安に思いながら、ときには、いろいろと苦労しながら使っている。

ちゃんとした企業でビジネスでオープンソースを取り入れようとするところなら、この本に解説されていることぐらいは、すでに心得ているだろうし、興味のない面々は、こういう本が出ていることも気に止めないだろう。だから、結局、一番この本が役に立つのは、やはりオープンソースやフリーソフトウェアとは何かを知りたい初心者にとってだろう。

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